
この原稿は2011年1月時点のものです。
第一生命保険株式会社 代表取締役社長 渡邉光一郎氏

内永 御社は昨年(2010年4月)、相互会社から株式会社へと転換されました。これは大変なリスクをともなう大事業で、よくご決断されたと思います。なぜ今、このような変革をされたのでしょうか。
渡邉
生命保険会社という業態は、まさに「日本経済が抱えている課題」そのもののような産業です。「少子高齢化」が進展してゆく中で、従来のままなら縮小してゆくしかありません。そうした中で私どもの理念、「お客さま第一主義」を、未来永劫にわたって果たしてゆくためには、より柔軟に、よりスピーディに経営戦略をとることができる株式会社にし、資本調達力も含めて、株式を上場させることが必要であると判断しました。
実は「お客さま第一主義」という経営理念は、創業者が言い出した言葉で、今でこそ、当たり前のように思えますが、明治35年当時としては、とても画期的な考え方で、かなりの変革者だったんです。
内永
なるほど。変革は創業以来の精神ということですね。
ただ保険業界というのは、ビジネスモデルそのものは、あまり変わっていませんし、中でも御社は大きなマーケットシェアをお持ちですから、変革をするのはかなり難しいのでは、と思います。そんな中で、何をテコにして、会社を変えていこうと考えられているのでしょう。
渡邉
変革の担い手となる人材の育成が大切だと思います。ただしその前に、これから会社として何を目的にしていくのか、人材が目指すものは何なのかを、明確に示す必要があると考えています。そこで昨年9月、「新・生涯設計戦略」と「DSR」という2つの軸を掲げました。
「新・生涯設計戦略」というのは、すべてのお客様に対し、すべてのライフステージで、一生涯のパートナーとなるというコンセプトです。それに合わせて新たな商品やサービスを提供していきます。従来はお客様のことを「消費者、契約者」というとらえ方をしていたんですね。でも、そうではない私どものお客様は「生活者」なのだと。契約していただける方だけでなく、そのご家族も含めて、「一生涯のパートナー」になっていくと考えることが、これからは必要だと思っています。
内永 全ての人が対象ということですよね。それは、本当に大事な根幹だと思います。

渡邉
もう一つの「DSR」とは第一生命のCSR(企業の社会的責任)のこと。「D」は第一生命を表します。
CSRというと、社会貢献としてとらえている会社が多いと思いますが、私どもは2001年に「日本経営品質賞」を受賞したときの経営品質向上の取り組みがベースにあります。
つまりこれから経営改革を進めていくにあたっては、この経営品質をベースにしながら、PDCAをまわしていかなければなりません。そこで、CSRを経営の本質的なものととらえて、より自分たちのものにするために「DSR」という名称に変えました。
要は、現場を巻き込んだ品質改善活動ということです。それぞれの現場で、PDCAをまわして課題解決に取り組んでほしい。すべての職員が矛盾解決から逃げない意識をもってほしい。DSRとは、そんな思いを表したものです。
これは終わりなき旅で、ゴールはないと思っています。ただ私は、このDSRが本当に職員一人ひとりの腑に落ちるまでやりたい。それがこれからのチャレンジですね。
内永 DSRを第一生命さんのDNAにしたい、ということですね(笑)。実は私が副社長をしているベネッセという会社も、ベネ(よく)+エッセ(生きる)で「よく生きる」という意味なんですね。ですから、各種の教育からお年寄りのケアセンターまで、お客様が人生をよりよく生きるために必要なサービスをすべて提供しますという事業ですから、我々の事業すべてがCSRだということで、社内にはCSRという部門がないんです。
渡邉 同じ発想かもしれませんね。この新・生涯設計戦略とDSRという2つの考え方をベースにして、中核事業での成長戦略を考える。品質の改善をしていく。そうして中核事業の経営戦略を明確に示した上で、海外市場や貯蓄分野といった新たな形での成長を考えたいと思っています。
渡邉光一郎(わたなべ こういちろう)
第一生命保険株式会社 代表取締役社長
1953年静岡県生まれ。東北大学経済学部卒業後、76年第一生命保険相互会社入社。97年調査部長、2001年取締役企画・調査本部長兼企画第一部長。04年常務取締役。08年取締役専務執行役員。10年4月、株式会社化・上場を果たすのにあわせ、代表取締役社長に就任。

内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人J-Win 理事長
1946年香川県生まれ。東京大学卒業後、71年日
本IBM入社。95年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウエア開発研究所長。04年取締役専務執行役員。07年4月NPO法人J-Winを立ち上げ、理事長に就任。08年4月よりベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツインターナショナル会長兼社長兼CEOに。
