2010年APEC(アジア太平洋地域経済協力会議)に合わせて、APECに加盟する21エコノミーの産業界、学会、行政、民間団体などの女性リーダーから成るネットワーク会合(WLN)が、9月19〜21日に開催されました。J-Winでは、同WLN会合の2つのサイドイベントを主催。22日(水)、東京大学情報学環 福武ホールにて行われましたセミナー「グローバルリーダーを目指して 〜グローバルに活躍するAPECの女性エグゼクティブたち〜」の基調講演を一部ご紹介します。
基調講演「グローバルリーダーの条件」
G&S Global Advisors Inc代表取締役社長
コーン・フェリー・インターナショナル株式会社
アジア・パシフィック シニア・アドバイザー
橘・フクシマ・咲江氏
1991年、コーン・フェリー・インターナショナルに入社する前、私は戦略系のコンサルティングの会社に勤めていました。その間に、優れた戦略があっても、それを実行する優秀な人材がいなければ企業の成長はないということを思い知り、人材の重要性を痛感しました。そこで人材のコンサルティングを専門に行うコーン・フェリーに移ったのです。
このコーン・フェリーでは19年務め、その間12年間は、本社の取締役を務め、最後の10年は日本法人の社長、会長を務めました。さらに花王やソニー、ベネッセの社外取締役も歴任させていただいたのですが、こういった経験から、私は日本に対して危機感を抱くようになりました。
その危機感とは、日本の国としての競争力の低下に対するものです。例えば、スイスのIMDというビジネススクールが毎年公表している国の競争力ランキングを見ても、日本は2006年には14位だったのに、その翌年の2007年には24位まで下がってしまいました。また、2010年には、中国のGDPが日本を追い越し、世界2位にランキングされる予定です。ゴールドマンサックス社が2007年に立てた予想では、中国が日本を追い越すのは2016年とされていましたが、想像されていたものよりも現実の勢いは大きく上回っています。つまり中国、そしてその他のアジアの国の成長がものすごいスピードで進んでいるということです。
その中にあって日本の競争力が失速している一因は、グローバルリーダーの不足だと、私は考えています。私は90年からすでにそのことを危惧しており、『売れる人材』という一冊目の本を書いて以来警鐘を鳴らしてきたのですが、未だに日本の人材市場の状況は大きく変わっていません。海外市場に進出し、競争を勝ち抜いていくためにはグローバルな感覚があり、かつ変革者的なリーダーが必要だということを、日本企業のほとんどが気付いています。ところが、実際の人材市場のエグゼクティブを見ますと、いわゆる日本的な伝統的なタイプのリーダーが多い。そう、需要と供給のミスマッチがあるのです。
日本の企業内を眺めてみると、ダイバーシティが進んでいないという問題点もあります。ダイバーシティというと最近では他国籍社員の活用が重要視されていますが、女性活用もあいかわらず日本は遅れています。アメリカの女性取締役推進の活動をしている組織の統計によれば、各国のトップ100社の取締役に占める女性の割合は、2009年、日本は11.4%。これは最下位の国から数えて下から5番目、その前後はイスラム諸国です。
そして、ここが今後の大きなキーとなると思うのですが、グローバルリーダーといえば、今までは欧米型のリーダーが模索されていましたが、アジアの経済成長により、現在では欧米とアジアのハイブリット型が求められるようになってきました。
ここまで挙げてきたいくつかの課題を、日本企業が解決するためのサポートをし、新しいハイブリット型リーダーを模索してみたい。その思いから、私はG&S社を立ち上げることを決意しました。コーン・フェリーにもシニア・アドバイザーとして籍を残し、会社契約という形で、私は私のミッションを果たしていこうと考えているわけです。
では、変革者的なグローバルリーダーとは、どのような資質を備えた人物なのか、具体的にお話をしていきましょう。まずは当然グローバルに国境を越えて活躍できる人財(資産としての人です)、分野は問いませんが1つの組織に限定されない汎用性のあるプロフェッショナルスキル・専門性がある、そして創造的な問題解決ができて、多様性をマネージメントする能力を備えた人財です。つまりグローバルなプロフェッショナルの変革者です。そうした人財の要件としては、「職務的資質(職務経験)(職務能力)」と「個人的資質(基礎的能力)(性格)」とに分けて考えられます。
そうした人財になるために何をするかですが、「職務経験」としては、海外での生活・学習経験や就労経験を通して多様な人材のマネージメントを学ぶことが重要です。海外での職務経験をすることは、大企業の経験者でも起業家精神がなければ出来ません。それは、大組織のサポート無に自分にとって初めての環境、人間関係の中で組織を作っていくということを経験することになるからです。そういう経験を通して「職務能力」として得られるのは、マルチリンガルなコミュニケーションスキルや、過去に経験したことの無い危機に毎日遭遇しますから危機管理能力も磨かれます。そこから創造的な問題解決能力、そして柔軟に対応していく能力も身についていくのです。
多様性をマネージメンとするということについては、ちがいを協調するのではなく、共通項を探すことが大切なのだと、自分自身にも常に言い聞かせています。私たちは、アメリカ人、日本人とカテゴリーに分けて考えがちですが、国民性はその人の中にあるたくさんの要素のほんの一部にすぎない、そう考えることが重要だと思います。また、多様な人とのコミュニケーションで大事なのは、ファクトベースで話すことです。「事実」はひとつであっても、その「解釈」は人の立場によって異なり、人がいればいるだけ存在します。したがって、その解釈を議論しても不毛な議論になり勝ちです。ですから共通に理解できるファクトをベースに議論することが有効だと考えるようになりました。例えば数字で示すことは重要で、この共通に理解できるものにたいして、それぞれの解釈を話し合うということで、独善的になったり断定的になることを防ぐことができます。
特に日本の経営者が過去必要でなかったため、必ずしも育っていない「基礎的能力」の要件がいくつかあります。人財を探すのに苦労する要件として挙げられるのが、「戦力的思考」です。加えて、論理性、分析力もあります。また、会議等でそうした論理に基づいて、人に説得力のあるプレゼンや話し方ができることと、人の話に耳を傾ける力・傾聴力、自己完結型の仕事をする自立と自律、人が持つダイバーシティを理解できる感性等です。戦略的思考の習得には、独学で結構ですのでMBAの概念を勉強することをおすすめします。MBAはロジカルな考え方やビジネスのコンセプトを学べて、そのビジネス全体を眺めるうえでの世界共通の「ツール」を教えてくれるからです。また、常に「私が社長だったらどうするだろうか?」ということを考える訓練も有効です。例えば自分が想像した決定と、実際の社長の決定が違う場合、「それはなぜなのか?」と掘り下げて考えてみてください。自分とは違う視点があるということを意識するのは、グローバルコミュニケーションの基本でもあります。
「性格」の要件に関しては、これはかなり文化的なところがありますが、ダイナミックで決断力があり、エネルギッシュでカリスマ性がある。創造的でフレキシブル、前向きでありリスクテイカーであること等ですが、これは文化的に国によって変わってきます。その様にしてそうした能力を育てるかについては、リスクをとったうえで、自分の選択、いえ自分の人生は自分で責任をとるという気概──私がお会いした成功しているエグゼクティブの共通点です。
創造的思考とフレキシビリティに関しては、難易度の高い仕事が降って来ても、できない理由を説明する前に、どうしたらできるのかその方法を徹底的に考えることが、何よりの訓練だと思います。
そして、誠実であることは重要です。とくに、リーマンショック以降は、この誠実さ、インテグリティがアメリカの経営者のなかでも非常に重要視されています。これから求められているリーダシップ像は、欧米のみでもアジアのみでもなく、アジアと欧米の「ハイブリットリーダー」ですが、そのコアは、誠実さになると思っていますが、しかし、誠実でありながら、そこにしたたかさを加えることで、日本のグローバルリーダー像が確立されていくのではないかと確信しています。
さて、ハイブリットなリーダーについて、もう少し触れていきましょう。コーン・フェリーとEIUの2006年の調査では、「アジアのリーダーが欧米のリーダーシップから学ぶことはあるのだろうか」との質問に、アジアは上下の関係がありトップダウンなので、「もっと部下のイニシアティブに任せる」ということが大事との結果が出ています。日本は中間管理職が比較的力を持っていますから、これは中国や韓国においてより当てはまるかもしれません。また、話は重複しますが「戦略的ビジョンを持ち、説得性のあるコミュニケーションスキルを身につける」ことが必要との結果が出ています。
逆に「欧米のリーダーがアジアのリーダーから学べることは何か」というと、「人との繋がりをしっかり確立すること」や、「会社への忠誠心を育成し、部下に対する敬意も育成すること」等が挙げられています。これは未来イメージとして非常に参考になるデータだと思います。
じつは私は、今までお話ししてきたグローバルリーダーの要件を満たす人は、女性に多いと感じています。基本的に「個人的資質」は全て女性は持っています。女性はまじめに勉強しますから、大学卒業時に大変に優秀ですし、実際に過去19年間、男女合わせて数千人のエグゼクティブの方々にお会いしてきましたが、女性のほうがリスクをとる、そして起業家精神に富んだ方が多いという印象を受けました。
その理由の1つは、まだまだ組織の中で既得権を持っている女性が少ないということによるでしょう。したがって思い切ったことができるわけですが、ただし、今後そういった女性達がちがうポジションになった時に、その傾向を維持できるかということが重要です。現状を見ますと、残念ながら、女性は企業から十分な「職務経験」をさせてもらっていませんので、「職務能力」を育てる機会が男性より少ないことになります。ですから、企業も個人も経験をするということを第一に考えて、企業はやらせてみる、女性はやってみるということが不可欠。そのことを強く申し上げたいと思います。
※引き続き行われましたパネルディスカッション「グローバルリーダーを目指して」の内容は、『J−Winリポート13月号』でご紹介します。お楽しみに。
【橘・フクシマ・咲江(たちばな ふくしま さきえ)氏のPROFILE】
G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長
コーン・フェリー・インターナショナル株式会社
アジア・パシフィック シニア・アドバイザー
【学歴】
1972年 清泉女子大学文学部英文科卒業
1974年 国際基督教大学大学院日本語教授法研究課程修了
1978年 ハーバード大学大学院教育学修士課程修了 (Ed. M)
1987年 スタンフォード大学大学院経営修士課程修了 (MBA)
【職歴】
1974年〜1980年
ハーバード大学東アジア言語文化学科日本語教師
初級および中級の日本語教育を担当。同時にエズラ・F・ヴォーゲル教授の日本語講師を務め、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の日本語訳に携わる。
1980年〜1984年
ブラックストン・インターナショナル株式会社
米国系大手経営コンサルティング会社のコンサルタントとして、米国企業に対してコンサルティング・サービスを提供。製造業等の分野での企業の国際戦略の立案・実施を行う。1982年以降日本にて情報収集等コンサルティング活動を行う。
1987年〜1990年
ベイン・アンド・カンパニー株式会社
米国系大手経営コンサルティング会社のコンサルタントとして、米国および欧州企業に対してコンサルティング・サービスを提供。消費財・医薬品・製造業等の分野でのM&Aを含む企業の国際戦略の立案・実施をボストン本社並び に日本支社にて行う。
1991年〜現在
コーン・フェリー・インターナショナル株式会社(世界最大の人材コンサルティング会社)のアジア太平洋地域の最高顧問。同時に2010年、G&S Global Advisors Incを設立、代表取締役社長に就任。コーン・フェリーでは2000年より2009年まで代表取締役社長。2010年に代表取締役会長。1995年5月より2007年9月まで米国本社取締役を兼務。1999年4月より経済同友会会員。2001年4月より同友会クラブ理事。2002年7月より2006年6月まで花王株式会社の社外取締役。内閣府対日投資会議専門部会委員会委員、文部科学省科学技術・学術審議会、基本計画特別委員会委員、及び人材委員会委員を歴任。2003年5月より同友会幹事。2003年6月より2010年6月までソニー株式会社社外取締役。同報酬委員会議長も務める。2005年6月より2010年6月まで株式会社ベネッセ・コーポレーション社外取締役。現在、ブリヂストン株式会社、パルコ株式会社の社外取締役。2008年1月、ビジネスウィーク誌「世界で最も影響力のあるヘッドハンター・トップ50人」に唯一の日本人として選ばれる。
【著書】
『プラス思考のアメリカ人 マイナス思考の日本人』(共著・ジャパンタイムス社)
『売れる人材―エグゼクティブ・サーチの現場から』(日経BP社)
『40歳までの"売れるキャリア"の作り方』(講談社)
『自信のなさは努力で埋められます』(フィールドワイ社)
『人財革命―あなたが組織に負けない一流の人材になる為に』(祥伝社)
『会社を変わるvs会社を変える』(共著・ファーストプレス社)
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